• 「もっとお腹に力を入れて!」「腹筋を締めて!」
  • スポーツの現場でよく聞くこの指導、実は半分正解で半分間違いです。
    多くの指導者や選手が「腹圧」を「腹筋に力を入れること」と同一視していますが、これは腹圧の本質を見誤っています。
  • 腹圧を正しく理解し、正しく使えるようになると、体幹が安定し、ケガのリスクが下がり、力の伝わり方が変わります。
  • この記事では、腹圧とは何かという基本から、正しい入れ方、そして実際に腹圧のコツをつかむためのトレーニング方法まで、順を追って解説します。

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腹圧の重要性

腹圧(腹腔内圧)とは、お腹の中の空間である「腹腔」の内側にかかる圧力のことです。
この圧力が適切に高まることで、体幹はまるで空気の入ったボールのように内側から支えられ、安定した「土台」になります。

この土台がしっかりしていないと、どうなるでしょうか。

  • ジャンプや着地、切り返し動作で腰が反ったり丸まったりしてブレやすくなる
  • 手足を大きく速く動かそうとしても、力の起点である体幹が不安定なため、力がうまく伝わらない
  • 腰椎に余計な負担がかかり、腰痛や成長期の腰の障害につながりやすくなる

つまり腹圧は、単なる「見た目の体幹の強さ」ではなく、あらゆる動作の土台となる、パフォーマンスとケガ予防の両方に関わる重要な要素なのです。

特に腰の怪我は、フォームやオーバーユース(疲労の蓄積)という原因もありますが、
腹圧が抜けてしまっている、上手く入れられていないという要因であることも多くあります。
腰の怪我は長期化しやすく、どんなスポーツをするうえでも重要な部位になるので、幼少期からできるだけ早く正しい腹圧をマスターして怪我を予防することが大事です。

腹圧とは何か?

ここが最も誤解されやすいポイントです。

「腹筋に力を入れる」という指導は、多くの場合、お腹の前側にある腹直筋(いわゆるシックスパックの筋肉)を意識させる指導になりがちです。
しかし、腹直筋だけをギュッと固めても、腹圧は高まりません。

腹圧を生み出しているのは、お腹を取り囲む筒のような構造全体です。

  • 上:横隔膜(呼吸で上下する膜)
  • 下:骨盤底筋群
  • 前・横:腹横筋や腹斜筋などのお腹まわりの筋肉
  • 後ろ:多裂筋・脊柱起立筋群等、腰や背骨に沿った深層の筋肉 ~ 広背筋等の背中の筋肉

この4つが天井・床・壁のように腹腔をぐるっと囲み、その内側全体の圧力を高めることで、体幹という一本の「柱」ができあがります。
つまり腹圧とは、お腹だけの話ではなく、腰や背中まで含めた体幹全体の圧力の話なのです。
パワーリフティングで日本記録保持者の牛山恭太選手も、自身のYoutube動画の中で「腹圧より背圧(背中の圧力)を意識することが大事」と語っています。

「お腹をへこませて固める」「腹筋を割るように力む」といった意識だけでは、この筒全体を機能させることはできません。
横隔膜と骨盤底筋群という「天井」と「床」を正しく使えるかどうかが、腹圧の質を大きく左右します。

正しい腹圧の入れ方は?

では、この腹圧はどうやって作るのでしょうか。カギを握るのが「呼吸」です。
腹圧を高める基本的な流れは、次の通りです。

  1. 鼻からしっかり息を吸い込む:胸を上下に動かすのではなく、お腹(特に横・後ろ側も含めた腹まわり全体)が風船のように膨らむイメージで、深く息を吸い込みます。
  2. 吸った空気を一瞬お腹の中に「溜める」:息を止めた状態で、お腹まわり全体(前・横・後ろ)に均等に圧力がかかっている感覚を意識します。このとき、お腹をへこませるのではなく、むしろお腹まわり全体に張りが出る、出っ張らせるような感覚に近くなります。
  3. その圧力を保ったまま、力を発揮する動作に入る: ジャンプする瞬間、ボールを投げる瞬間、相手とぶつかる瞬間など、力を出したいタイミングでこの「溜めた圧力」を保つことで、体幹がブレない土台になります。

ジュニア期の選手には、まず「お腹をへこませる」ではなく「お腹に空気をパンパンに入れて、そのまま力を出す」というイメージで伝えると理解しやすい傾向があります。
ウチの子どもたちには、「いっぱい息を吸って、風船を膨らませて!」と伝えています。
息を吐ききって固めるやり方とは逆の感覚になるため、最初は戸惑う子も多いですが、繰り返すうちに感覚がつかめてきます。

腹圧の入れ方、入れた状態での動かし方のコツをつかむトレーニング

上記のような説明をしても、なかなか子供には伝わらないと思います。
いきなり動きながら腹圧を意識するのは難しいため、まずは寝た姿勢で腹圧そのものの感覚をつかむ練習から始めます。

腹圧の入れ方、正しく入っているかを確認する方法

  1. 仰向けに寝転がる
  2. 膝から下をステップ台やベンチなど、ある程度高さのある台の上に乗せ、股関節・膝関節がそれぞれ90度になるようにする
  3. 腰と床の間にできるすき間を埋めるように、腰を床にしっかり密着させる
  4. その姿勢のまま、前項の呼吸法でお腹に空気を入れて圧力を溜める
  5. 圧力を保ったまま、20〜30秒ほど自然な呼吸を続ける

このポジションのポイントは、腰を反らせる代わりに骨盤をやや後傾させ、腰全体を床に押し付けた状態を保つことです。
腰と床の間に隙間ができてしまうと、腹圧ではなく腰の反りで姿勢を作ってしまい、狙った感覚が身につきません。

まずはこの静止した状態で「お腹まわり全体に圧力がかかっている感覚」と「腰が床から離れない感覚」を、体に覚え込ませることが第一歩です。

ちなみに上記で説明のあった”ステップ台”については、いろんなトレーニングで使える便利グッズです。
他の記事でも、ステップ台を利用したトレーニング・ステップ台のメリットを記載していますのでご参考までに。
【4歳以上】スタートダッシュを爆発的に速くする!自宅でできるジャンプトレーニング

トレーニング①:デッドバグ

腹圧の感覚がつかめてきたら、次は「腹圧を保ったまま手足を動かす」段階に進みます。
実際のスポーツ動作は静止した姿勢ではなく、手足を動かしながら体幹を安定させる必要があるためです。
いろんな競技のいろんな動作に役立つ、腹圧を入れながら動くトレーニングを3つ紹介します。
いずれも4歳~6歳くらいからできる基礎メニューですが、とはいえ大人の競技者も腹圧を意識するために取り入れているような本格メニューです。

まずはデッドバグから。

  1. 仰向けに寝て、股関節・膝関節を90度に曲げ、両手は天井方向に伸ばす
  2. 腰を床に密着させたまま、腹圧を高める
  3. 腹圧を保ったまま、右手と左脚(または左手と右脚)をゆっくり床に近づくまで伸ばす
  4. 腰が床から浮かないことを確認しながら、元の位置に戻す
  5. 反対側も同様に繰り返し行う
    (目安は右と左であわせて6回~10回×2セットくらいから。回数を重ねるより、呼吸を丁寧にするように心がけましょう。)

先ほどの仰向けポジションでの腹圧の入れ方から、そのまま動かすことができるメニューです。
腰が反ってしまう、あるいは手足を伸ばした瞬間に力が抜けてしまう場合は、動作の範囲を小さくして、腹圧を保てる範囲内で行うようにします。
手足をゆっくり降ろすのは、3秒かけて降ろす、2秒かけて戻す、くらいのペースで丁寧に行いましょう。

ちなみにデッド=死んでいる、バグ=虫です。
幼稚園~小学校低学年くらいの男の子にはハマる名前かもしれません笑

トレーニング②:ベアクロール

四つ這いの姿勢から移動する動きで、より実際の競技動作に近くなります。
腹圧を入れながら、下半身~上半身を連動させるトレーニングです。

  1. 四つ這いになり、膝を床から数センチ浮かせる
  2. 腹圧を高めた状態で、背中が丸まったり反ったりしないよう、平らな状態をキープする
  3. 対角の手足(右手と左足など)を同時に小さく前に出しながら、ゆっくり前進する
  4. 腰や背中の形が崩れない範囲でスピードや歩幅をコントロールする
    (1歩10~20cmくらい、歩幅は小さい方が望ましい)
    5m×2~3セットくらいでよいでしょう。

ベアクロールは手足がバラバラに動く中で体幹の形を保つ必要があるため、デッドバグより難易度が高いトレーニングです。
腹圧が抜けると背中がすぐに丸まったり反ったりするため、良い姿勢を保てているかどうかのチェックにもなります。

こちらもクマが4足歩行する動きをイメージしたトレーニング名称です。

トレーニング③:バードドック

今度は逆に入れた腹圧を保つためのトレーニングです。
競技の中では腹圧を入れ、それを保つ動きも必要になります。

  1. 四つ這いの姿勢から、腹圧を高める
  2. 片方の腕を前方に、反対側の脚を後方にゆっくり伸ばす
  3. 腰が反ったり、体が左右に傾いたりしないよう、骨盤の高さを一定に保つ
  4. 3秒ほどキープしてから元の姿勢に戻り、反対側も行う
    目安は6回~10回、こちらも2セットやれば十分です。


バードドッグはデッドバグと似た狙いを持ちながら、うつ伏せ寄りの姿勢で行うため、背中側の筋肉(多裂筋など)への意識づけがしやすいという特徴があります。

ちなみにバードドックは狩猟犬の一種、鳥猟犬を意味します。
獲物を見つけると、片方の前脚を持ち上げ、体を一直線に伸ばしたまま静止して獲物の方向を示す姿勢を取ります。
どれも動物なので、小さい子が真似しやすいかもしれません。

まとめ

腹圧は「お腹に力を入れる」というより、「呼吸で体幹全体の圧力を高め、その圧力を保ったまま動く」ための土台づくりです。
一朝一夕では身につきません。日々の練習前のウォームアップやトレーニングの中に少しずつ取り入れ、繰り返し体に覚えさせていくことが、ケガをしにくく、力の伝わる体づくりへの近道になります。

  • 腹圧は腹直筋だけでなく、横隔膜・骨盤底筋群・腹横筋・多裂筋など、体幹をぐるりと囲む筋肉全体で作られる
  • 呼吸で息をしっかり吸い込み、お腹まわり全体に圧力を溜めることが腹圧の入り口
  • まずは仰向け・膝を台に乗せた姿勢で、腰を床に密着させながら腹圧の感覚をつかむ
  • 感覚がつかめたら、デッドバグ・バードドッグ・ベアクロールと様々な動きの中でも腹圧を保つ練習をしていく