• 「練習では速かったのに、本番だと思い通りのタイムが出ない」
    こんな経験はありませんか?
  • 緊張、集中力のせいにされがちですが、実は試合直前の練習の組み方が原因になっていることが少なくありません。前日まで追い込みすぎて疲れが残っていたり、逆に1週間まるまる休ませて体が「寝ぼけた」状態になっていたり。
  • 試合当日に、その時点で出せる最高のパフォーマンスを出すための調整を「ピーキング」と呼びます。
  • この記事では、陸上のスプリント(短距離走)を例に、試合前の調整の仕方、神経系の適応、最大出力を保つための練習頻度を分かりやすく解説します。

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ピーキングとは?「疲れを抜く」と「力を残す」の両立

前提:体の調子には「波」がある

同じ子が同じ距離を走っても、驚くほど速く走れる日と、なぜか体が重い日があります。
これは気分や偶然だけで決まっているわけではありません。体の調子には、いくつかの「波」があります。

① 練習の負荷による波

きつい練習をした直後は、疲れで一時的に力が落ちます。
そこからしっかり回復すると、練習前より少し高いレベルまで戻ってきます。
この「落ちて、回復して、上がる」の繰り返しが、数日単位、さらにまとまった練習期間ごとの数週間単位で起こっています。

管理人自身がパワーリフティングをやっている感覚ですが、
同じトレーニングをしていても4週間~6週間くらいのサイクルで、ベストが上がる期間と上がらない期間があります。
ので、パワーリフターのその周期を上手く使ってベストを更新できるよう、緻密なトレーニングプログラムを組んでいます。

② 1日の中の波

体温やホルモンには1日のリズムがあります。
短距離走やジャンプのような瞬発系の能力は、体温が上がる夕方の時間帯に高くなりやすく、朝は出にくいことが知られています。
朝早いレースでいつもより記録が伸びないのは、ある程度は自然なことです。
また食事の直後(消化中)、あるいは空腹時等にいいパフォーマンスが出にくいのも想像に難くないと思います。

③ 生活や成長による波

睡眠不足、風邪気味、学校行事の疲れ。
成長期の子どもであれば、急に背が伸びる時期に動きのバランスが崩れることもあります。
当然練習に向かうときのモチベーションや気分でも大きな差があります。

こうした波が重なった結果、「ベストが出やすいタイミング」と「出にくいタイミング」が生まれます。

練習でたまたま自己ベストが出たのに本番では出なかった、というのは、調子の山が試合当日ではない日に来てしまったということです。

ピーキングの目的は「山」を試合当日に持っていくこと

1日の中の波や体調の波は、ある程度しか動かせません。
しかし①の練習の負荷による波は、練習の組み方で大きくコントロールできます。

ピーキングとは、試合までの数日〜数週間の練習量や強度を調整して、調子の波の山をいかに試合当日に持っていくかという取り組みです。

練習には「体力を上げる効果」と「疲れ」の両方がある

トレーニングをすると、体には2つのことが同時に起こります。

  1. 体力が上がる(技術が向上する、フィジカルが向上する)
  2. 疲れがたまる

練習を積んでいる期間は、上がった体力が疲れに隠れて表に出てきません。
毎日しっかり練習している子ほど、普段のタイムは「疲れ」込みの数字です。

そこで試合前に練習量を減らし、疲れだけを抜いて、上がった体力を表に出す。
これがピーキングの基本的な考え方です。

この「体力」と「疲れ」の関係は、スポーツ科学で「フィットネス-疲労理論」と呼ばれています。
詳しくは別の記事でも解説します。

ただ休めばいいわけではない

ここで多くの人がやりがちなのが「試合前は休ませておこう」という判断です。

確かに疲れは抜けます。
しかし休みすぎると、今度はせっかく上がった体力そのものが落ち始めます。
後で詳しく説明しますが、「神経系」の働きによるものです。

特に瞬発系競技、陸上の短距離(スプリント)のような「最大スピード」、
パワーリフティングのような「最大パワー」の能力は、落ちるのが早い能力です。

ピーキングは「疲れは抜けたけど、体はまだ鋭い」という一瞬のタイミングを、試合当日に合わせる作業だと考えてください。

ピーキングの鉄則:量は減らす、強度は落とさない

試合前の調整については、スポーツ科学で比較的はっきりした答えが出ています。

水泳・自転車・陸上の選手を対象にした研究をまとめたメタ分析では、

  • 期間は約2週間
  • 練習量を41〜60%減らす
  • 練習の強度と頻度は変えない
  • 量は少しずつ段階的に減らす

という調整がもっとも効果的だったと報告されています。
その後の持久系競技のメタ分析でも、量を4〜6割減らし、強度と頻度を維持する調整が有効という同様の結論が出ています。

ポイントは「量を減らす」と「楽な練習にする」は違うということです。
「試合前だから軽めに」と言って全部をゆっくり走らせると、量は減っても強度まで落ちてしまい、体が速く動くことを忘れてしまいます。

陸上スプリントの試合前スケジュール例

ここからは、週3〜4回練習している小学校高学年〜中学生の短距離選手を想定した、試合前のスケジュール例です。

3〜4週前:最後に「積む」時期

普段通り、またはやや多めに練習します。
調整期に量を減らすと効果が出やすいのは、その前にしっかり練習を積んでいる場合です。

逆に言えば、試合の2週間前を切ってから新しい練習を増やしたり、急に頑張らせたりするのは逆効果です。
特にありがちなのが、試合前に不安になってフォーム改善に取り組むことです。
フォームやギアの調整は3~4週間前までに終わらせましょう。

2週前:量を少し減らし始める

走る本数やセット数を2〜3割減らします。
補強(腹筋・ジャンプ系・筋トレ)の量もここから減らし始めます。

スピード練習の質は落としません。
タイムを計る全力疾走はいつも通り入れます。

1週前:量を半分前後に、全力は残す

ここが調整の中心です。

  • 練習の総量は普段の4〜6割程度
  • 全力疾走は本数を減らして残す(例:普段6本なら3〜4本)
  • 1本ごとの休憩は長めにとり、毎回トップスピードで走れる状態を保つ
    短距離走(20秒以内)の種目であれば3分程度の休憩、1分程度の種目であれば5分は休憩を取って、
    体内のエネルギー(ATP及びその材料)が最大まで回復してから走りましょう。
  • 筋肉痛が出るようなトレーニング(強いジャンプ系、重い筋トレ、坂道ダッシュの量)は控える

練習回数(頻度)はできるだけ普段通りにします。
週4回練習している子なら、量を半分にして4回来る方が、2回に減らすより感覚が保たれやすいと言われています。

筋肉を動かすエネルギー(ATP)に関する詳しい説明はこちらの記事に記載しています。
瞬発系の競技者の多くが飲んでいる?筋肉を爆発的に動かす効果的な栄養「クレアチン」とは?

3日前:最後の全力刺激

試合前の練習の中で、もっとも大事な日のひとつです。

  • 30〜60mの全力疾走を3〜4本
  • スタートからの加速を2〜3本
  • 1本ごとに3〜5分しっかり休む

本数は少なくていいので、1本1本を本当に全力で走らせます。ここで「全力を出す神経の回路」を最後に強く使っておくことで、試合当日にその感覚が残ります。

なぜ「3日前」なのか。全力のスプリントや高強度の練習は、神経系や筋肉の疲れが抜けるまでに48〜72時間ほどかかると考えられているからです。3日前なら疲れは試合までに抜け、刺激の効果は残ります。

2日前:休養日

完全休養、または散歩・軽いストレッチ程度で十分です。

前日~当日朝:短いダッシュで体を目覚めさせる

「前日は休ませる」という家庭も多いと思いますが、
おすすめは短い全力ダッシュを少しだけ入れることです。

  • ウォームアップ後、20〜30mのダッシュを2〜3本
  • その場ジャンプや軽い連続ジャンプを数回
  • 全部で20〜30分以内、疲れを残さない量

近年のスポーツ科学では、試合の2〜48時間前に行う短時間・高強度の運動(「プライミング」と呼ばれます)が、試合でのスピードやパワーを高める可能性があると報告されています。
ポイントは量をごく少なくすること。
前日に「最後の追い込み」をするのは絶対に避けてください。

加えて当日も同様の考えで、
アップの中で全力ダッシュを入れる(最大スピードを出す)ことが重要です。

小学生・中学生の場合の注意点

普段の練習量が少ないなら、減らしすぎない

週1〜2回のクラブ活動や、運動会前に家で少し練習している程度の子の場合、そもそも疲れがたまるほどの量を練習していません。

この場合、2週間も前から練習を減らすと、調整ではなくただの練習不足になります。

  • 普段の練習量が少ない子 → 試合前日だけ量を控えめにする程度でOK
  • 毎日のように練習している子 → 7〜10日かけて段階的に減らす

試合前の新しいことは禁止

新しいスパイク、新しい練習メニュー、初めてのサプリメント。
試合直前に「新しいこと」を入れるのはリスクしかありません。
新しいモデルの靴を使う場合は、試合の少なくとも3~4週間前には履き慣らしておきましょう。

痛みがあるときは調整より治療

成長期の子どもは、かかとや膝の痛み(骨端症など)が出やすい時期です。
痛みがある状態での全力疾走は避け、まずは医療機関に相談してください。


試合前じゃなくても、3日に1回は全力を出さないと「鈍る」?

ここからは、試合前の調整とは別の話です。

普段の練習でも、最大出力を出す練習(全力疾走、全力ジャンプなど)を一定の頻度で入れないと、速さは鈍っていきます。
これには「神経系」が影響してきます。

「最大スピード」はいちばん落ちやすい能力

「練習をやめてからどれくらいの期間、効果が維持されるか」というのは種目(能力)によって変わります。
目安としては以下のとおりです。

(Issurin, 2008 / 2010 をもとに実体験も踏まえて作成)

持久力や筋肉量が比較的長くキープできるのに対し、最大スピードは数日〜1週間程度で落ち始める傾向があります。
筋力やスピードが落ちやすいのは、神経系の働きによって大きく左右される能力だからです。
ここで言う「神経系」は、一般的なイメージとは少し意味が違います。

「神経系」=運動神経のよさ、だけではない

「神経系」「神経系のトレーニング」と聞くと、多くの人は次のようなものを思い浮かべるはずです。

  • 運動神経がいい、器用
  • 手と足をうまく連動させる(コーディネーション・トレーニング)
  • 狙った通りに正確に動く力

もちろんこれも神経系の働きです。

しかし、トレーニングやスポーツ科学の文脈で「神経系」と言うとき、
むしろ「筋肉からどれだけ大きな力を引き出せるか(出力)」を指していることが多いです。

筋肉は「モーターユニット」の集まり

筋肉は、1本の運動神経と、その神経が命令を出す筋線維の束がセットになった「モーターユニット(運動単位)」がたくさん集まってできています。
脳から指令が届いたモーターユニットだけが縮み、力を出します。

つまり、筋肉がどれだけの力を出せるかは、筋肉の大きさだけでなく、

  1. いくつのモーターユニットを動員できるか(動員数)
  2. どれだけ速いテンポで指令を送れるか(発火頻度)
  3. どれだけタイミングをそろえて動かせるか(同期)

という、神経側の能力で大きく変わります。

大きく速いユニットは「全力」のときしか使われない

モーターユニットには、小さな力を出す持久型のユニットと、大きく速い力を出す瞬発型(いわゆる速筋線維が多い)のユニットがあります。
体は力を出すとき、小さいユニットから順番に使い、大きなユニットは全力に近い力が必要なときにしか使わないという仕組みを持っています(サイズの原理)。

裏を返せば、7〜8割の力で走っている限り、7~8割の筋肉しか動員されていません。
いちばん大きくて速いユニットにはほとんど指令が届いていないということです。

つまり最大出力をキープするためには、10割の力を定期的に出す必要があります。

筋トレを始めて最初の数週間は、筋肉がほとんど大きくなっていないのに筋力はぐんぐん伸びます。
よくある話で「初心者ボーナス」等と言われるものです。
これは、数週間で筋肉が肥大しているのではなく、動員できるモーターユニットが増え、指令のテンポやタイミングが良くなる「神経の適応」によるものだと考えられています。

思春期前の子どもも同じです。ホルモンの関係で筋肉は大きくなりにくい時期ですが、神経系の適応によって筋力やスピードは十分に伸びます。
子どもの「速くなった」「力が強くなった」の多くは、筋肉の量ではなく、この出力の神経が育った結果です。

だから全力の頻度が少ないとすぐ鈍る

ここまでをまとめると、

  • 最大スピードを決めているのは、大きなモーターユニットまで一気に動員する神経の力
  • その神経の回路は、全力を出したときにしか使われない
  • 使わない期間が続くと、真っ先に落ちる

ということになります。7割走をどれだけ積んでも、最大スピードを維持する練習にはなりません。
最大スピードを保つには、定期的に「本当の全力」を出す必要があるのです。

筆者の結論:3日おきに全力を入れる

管理人および子どもが瞬発系競技をやっている感覚で言うと、
最大出力を出す練習は「3日おき」くらいの頻度で入れるのがちょうどいいと考えています。

理由は2つです。

① 全力の疲れが抜けるのに48〜72時間かかる

本当の全力疾走や高重量のトレーニングは、見た目以上に神経系と筋肉に負担をかけます。
毎日全力を出すと疲れが抜けきらず、「全力のつもりで実は8割しか出ていない」状態になりがちです。

② 間隔をあけすぎると、今度は鈍る

一方で、1週間以上全力を出さないと、上で紹介したように最大スピードの感覚は落ち始めます。
もちろんコンスタントに1週間に1回、確実に高強度のトレーニングができていればギリギリ問題ないのですが、
子どもの体調は不安定ですし、予定や天候も不安定なので、例えば土日等、同じ曜日に毎回安定したトレーニングができるとは限りません。

それらも踏まえて、「疲れが抜けた」と「まだ鈍っていない」がちょうど重なるのが、
中2日(3日おき)前後というのが私の実感です。

ちなみに、筋力トレーニングを積んだ選手を対象にした研究(Travis ら, 2022)でも、
練習を3日休んだ場合は最大筋力が維持されたのに対し、5日休んだ場合は上半身の筋力にわずかな低下が見られたと報告されています。
種目は違いますが、「3日なら大丈夫、1週間を超えると落ち始める」という感覚と一致する結果です。

出力が下がっているのをどうやって確かめる?

ダッシュ、スプリントで言えば、毎回のタイムを記録しておくと、調子の波や「鈍り始め」に気づきやすくなります。
スマホのストップウォッチでも可能ですが、管理人の家ではより正確に測るために以下のような計測器も活用しています。
これはスタートとゴールの2点間のタイムをレーザーで機械計測することができるので、手動での誤差もありません。
持ち運びができ、セッティングも非常に簡単です。

かなり高価ですが、本気で競技に打ち込むなら持っていて損はありません。
(あとベストタイムを何度も測れるので、更新できると子供のテンションが上がります笑)

⚠️およそ5万円ほどです。画像と同じ、画面と黄色いレーザーと二つの反射板で4つ以上の部品に分かれているものを購入してください。安価なものを買うと、レーダーが1個しかないので2点間の距離を測れなかったり、単なるタイマーでボタン式のモノだったりします。

スプリント以外の競技にも同じ考え方が使える

ここまで陸上の短距離やパワーリフティングをベースに説明してきましたが、
この考え方は短時間で最大出力を出す瞬発競技全般に当てはまります。

私の子どもがやっていたランバイク(ストライダー)のレースも、1レース数十秒の全力勝負です。
レース前に練習量を減らしすぎて、当日スタートの反応が鈍くなってしまう子は少なくありません。

  • 野球の盗塁・ベースランニング
  • サッカーやバスケのとっさのダッシュ
  • 水泳の25m~50mの自由形
  • ランバイク・BMXのスタート

いずれも「量は減らす・強度は落とさない・全力は3日おき」という原則がそのまま使えます。

まとめ

  • 体の調子には波があり、ベストが出やすいタイミングがある。ピーキングとは、その波の山を試合当日に持っていくための調整。疲れを抜きつつ、上がった力を最大限出す。
  • 鉄則は「量は減らす、強度は落とさない、頻度はなるべく維持」
  • 最大スピードはもっとも鈍りやすい能力。試合前でなくても、3日おき程度に全力を出す練習を入れることで「神経系=モーターユニットの動員数」をキープできる